vol.7

チャンスボールを見逃さない

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 
守屋由紀さん 

2010.1.21

29歳の転機~妹たちへの応援歌~

世界に約3000万人以上と言われる難民を保護・支援し、難民問題の解決を目指す国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。東京・渋谷にある駐日事務所で広報官を務めているのがUNHCR15年目のベテラン職員、守屋由紀さん(47)だ。守屋さんの社会人スタートは大手商社のOL。結婚で「肩たたき」にもあった。それでも現在のキャリアを築いてこられたのは、幼心に抱いた疑問へのひっかかりと行動力があってのことだ。

「結婚肩たたき」に奮起

守屋さんは小学1年から3年まで、父親の赴任先のメキシコで育った。忘れられない光景がある。家族でレストランに行くと、店の前ではいつも、自分と同じ年ぐらいの、粗末な身なりの子どもたちが、裸足でかけ寄ってきては物乞いをしていた。「あの子たちはどうして貧乏なの」という疑問と居心地の悪さ。大学4年になって将来を考えた時、心に引っかかっていた思いがよみがえった。「世界で苦しんでいる人たちの手助けがしたい」

思い立ったが、どこに行けばいいのか分からない。とりあえず電話帳で「国連」を調べて、国連広報センターに電話。思いを伝え、面会の約束は取り付けた。だが、担当者に聞かれたのは「あなたは何が出来るの。何をしてくれるの」。答えられなかった。「ここは経験を積んでから挑む所なんだ」。出直す決意を胸にし、商社に就職した。

入社後は、中近東向けの自動車輸出業務の担当に。女子社員には名刺もない時代だったが、得意の英語を生かし、電話交渉でのリード役を務めたり、要人の接待を任されたりした。仕事に追われ、充実感も感じていた。ところが入社5年目、会社に結婚の予定を伝えると、「肩たたき」を受ける。上司は「ここまで育てたし、活躍してくれている。辞めさせる必要はない」と人事部に掛け合ってくれたが、「前例は作れない」と認められなかった。

ここで守屋さんはあきらめなかった。「今まで培ったビジネス能力を高め、働き続けたい」。貯金をはたいて夜間のビジネススクールに入学、英語のライティングや速記を学んで大手の法律事務所に就職した。2年後には商社時代の上司に誘われ、ベンチャーの通信会社に転職し、海外の取引先や提携先との折衝を担当した。

無駄な経験はひとつもない

チャンスは33歳の秋にやってきた。仕事で読んでいた英字紙にUNHCRの職員募集の小さな求人広告が載っていた。「今の私ならやれることがある」と採用面接に臨んだ。

UNHCRに入って一番びっくりしたのは、「肩書きで制限されずに仕事ができる」ことだった。最初の仕事は駐日代表秘書。だが、秘書としての仕事以外に、ホームページの作成を提案して担当したり、「ITに詳しそう」と言われてLANの管理者になったり、やる気次第で仕事が次々広がった。

43歳の時に上席連絡調整官に就任。「政府から資金協力を仰ぐにはどんなデータが必要なのか」と情報収集し、資料を作り、拠出金や緊急支援などを外務省に要請するのが仕事だ。広報官になり、相手は国からマスコミ中心になっても、「連絡調整官時代と同じ。何を求めているのかを聞き出し、察して、それ以上の付加価値を付けて情報を提供する」ことを目指している。

商社を振り出しにいろいろな職場・仕事を経験したが、振り返ると「どの経験も、無駄なものは一つもなかった」という。新入社員のころ、仕事の優先順位のつけ方などについて上司に「学生気分が抜けていない」と怒られながら指導され、反発したことも、今となっては「おかげでビジネスの基本動作が身についた」と感謝している。

大学時代、野球部のマネージャーだった守屋さんが心がけているのは、「チャンスボールは見逃がさない」ことだ。最近のチャンスボールの一つに、4年前に受けた一本の電話がある。使われなくなった商品を店頭で回収し難民キャンプに寄贈するユニクロの「全商品リサイクル活動」。これは「古着を送りたい」とのユニクロからの電話に「難民問題への関心を日本中に広めるチャンスかも」と思ったのがきっかけになった。実は、衣料支援の申し出はこれまで、輸送コストや通関の難しさから基本的に断っていた。UNHCR内でも反対意見が強かったが、ユニクロ顧客層への影響力を訴えて、自ら受け入れ先探しや調整役を買って出て、実現へこぎつけた。

今年で5年目になる活動は、国内での回収数が年々増え、寄贈数も昨年までで200万点を超す規模に拡大している。「今より一歩でも二歩でも良くなったらどうなるのか、そのためにどうしたらいいのか、常に想像しながら努力を続けていると、チャンスって意外と転がっている。『女の勘』を働かせてチャンスボールを打ちにいって」

MEMO
人生で一番大切なもの :
家族、健康と同僚、仕事
仕事史上最大の失敗 :
失敗はチャンスにつながるピンチとして活用しているので、思い出せないです
働く理由 :
仕事をこつこつ積み上げてやりとげた充実感や、より多くの方々の共感を得ることへの喜びであるとともに自分が今までお世話になった社会への恩返しであることが生きがい
最近、影響を受けた人 :
今までも今も母親
最近、影響を受けた本 :
「風に舞いあがるビニールシート」(森絵都著)、「巻くだけダイエット」(山本千尋著)
落ち込んだ時(ストレス)解消法 :
仕事をやりとげた時などに自分のために買った「ごほうび」を見て、本を読む
健康管理術 :
寝ること。特に移動時間など短い単位での睡眠を心がけます