「だから、働く」を年間テーマに、東京・六本木のアカデミーヒルズでスタートした「生き方カレッジ2010」。7月28日に開かれた特別企画では、脚本家の中園ミホさんに「働く女ですが、それが何か?」のタイトルで約1時間、お話をうかがいました。働く女性のリアルな姿を描いたドラマの数々が、どのように紡がれたのか、中園さん自身のキャリアを交えながら語っていただきました。

中園ミホ(なかぞの みほ)さん[ 脚本家 ]
1959年、東京都生まれ。広告代理店勤務、コピーライター、占い師を経て、88年にテレビドラマ「ニュータウン仮分署」で脚本家デビュー。「不機嫌な果実」「anego」など、テレビドラマを中心に多くの話題作を手がける。07年「ハケンの品格」で放送文化基金賞と橋田賞を受賞。最近は映画脚本、エッセイ執筆と活動の幅を広げる傍ら、2010年から日本大学芸術学部の客員教授も務める。

――働く女性の仕事や恋愛を描いたドラマで、「働くことは生きること」(「ハケンの品格」より)をはじめ、「愛情で人が幸せになれますか?」(「やまとなでしこ」より)などの名セリフを生んできた中園さんですが、もともと脚本家になろうと思っていたのですか?
小学校の卒業文集に書いた将来の夢は「玉の輿」です(笑)。その後女子大生になっても、ネクタイ締めて毎日満員電車で通勤する生活をどこかバカにしているような、世間を舐めている学生でした。そんな甘い考えの持ち主ですから就職活動はうまく行かず、親戚のコネでなんとか小さな広告代理店に入社しました。ところがここでも、ファクスすら送れないくせに、ヒトに教えを乞う姿勢も身に着けていない典型的なダメOLでしたね。でも、私はコネ入社だから周りも文句を言えなかったんです。1年3カ月経ってやっとそのことに気づき、さすがにコンプレックスを感じて自ら退職しました。その後は、10代のころから勉強していた占いで食べていこうと思いつき、有名な師の門下に入り、師匠のもとにくる政治家や著名人を占ったりして仕事をつないでいました。
――占い師から脚本家までは? かなり距離がありそうですが…。
26歳の時に渋谷の路上で一目惚れした相手が、シナリオライターだったんです。私はその人に会うために、おすしとかクッキーといった差し入れを持ってホテルのロビーで待ち伏せしたり、行く先々に先回りしたり…。まだストーカーという言葉がない時代で、いけないという認識が全くありませんでした。1年ぐらい経ったころに「もう二度とつきまとうな。警察に訴えるぞ」と言われ、今考えれば突き放されるのも当たり前なのですが、当時は駅のホームのベンチに座ったまま立てないぐらいショックでしたね。それでも諦めが悪かったので、「そうだ!あの人と同じ職業に進めばまた会えるかもしれない」とひらめき、翌日から国会図書館に通って彼の作品を読みまくり、2年後、脚本家になっていました。
借金まみれのハンサム男と、裕福なぶた男
――中園さんのドラマには、ドキッとするような言葉があります。
いつも、きれいごとではない本音を書こうと思っています。「やまとなでしこ」というドラマの第1話で主人公が「借金まみれのハンサム男と、裕福なぶた男、どっちが女を幸せにしてくれますか」と言うのですが、放送後、「普段、心に思っているけど口に出して言えない事を言ってくれてありがとう」という声が届きました。それまで、けなげなヒロインしか受け入れられないと思っていたので、「なんだ、みんな同じことを思っていたんだ」とうれしかったです。もちろん、「おしん」のような誰からも愛されるけなげなヒロインは素晴らしいけれど、本音ばかり言ってちょっと損な生き方しているヒロインもいい。私はそんなドラマの担当だと思っています。

――その本音のセリフやエピソードはどこから生まれるのですか。
私、取材が大好きなんです。「ハケンの品格」を書こうと思ったのも、「anego」というドラマの取材で正社員の女性たちに話を聞いたときに「今や職場の花は派遣さんです」と言われたのがきっかけでした。その時は派遣社員という働き方があることすら知らなかったので、まずテレビ局のスタッフと一緒に、派遣社員の女性を集めて飲み会をしました。彼女たちがすごいのは、2時間の飲み会の間、本音と思えることは一言も出さず、グチひとつこぼさなかったこと。しかも10秒ぐらい何も言わずニコニコと微笑むんです。飲み会が終わった後、スタッフからは「盛り上がらなかったし、全然ドラマになりませんね」と言われたのですが、私は逆に、その態度に衝撃を受け、「あの微笑みは、聞かれてまずいことを偽っている。これは絶対、何かある」と思いました。その後、私は恋愛でもそうなのですがしつこい性格なので、派遣社員の女性たちをずっと飲み会や食事に誘い続けました。そして数カ月後、ダムが決壊するかのように、彼女たちから本音やグチが当然あふれ出したのです。
働くことは生きることなんだ
――あふれ出た本音はどうでした?
セクハラ、差別、いじめ…次から次へと出てきました。その内容自体も衝撃的でしたが、彼女たちのことで印象に残っているのは、飲み会で各々がさんざんグチを暴露し合った後に、彼女たちが別れ際に「今はこんなにグチっていても、明日になったらまた笑顔で会社に行くんですよね~」とさらりと言ったこと。その後ろ姿を見て、きれいごとではなくて心の底から「あぁ、働くことは生きることなんだ」と思いました。
目の前にある仕事に一生懸命取り組むしかないと話すその姿を見て、ますます、このつらい現実を世の中に伝えたい、と思いました。一方で、彼女たちは自分が職場で直面している辛い現実を、会社から疲れて帰宅した後に、ドラマとして見たいと思うだろうか?とも思いました。より多くの人に、派遣社員の実情を知ってもらうと同時に、彼女たちが元気になれる、家で笑って見られるようなドラマにしなくてはいけない、と。だから「ハケンの品格」はファンタジーです。待遇の悪さや職場の差別など、ファンタジーにしないととても本音を言えない現実がありました。
実は当時、どういう結末にすれば納得がいくのか、私自身その答えが見つからず、「ハケンの品格」の最終回をわざと次に続くような終わり方にしました。あれから何年もたっていますが、派遣社員の待遇は改善されないどころか、むしろ悪くなっている。それなのに彼女たちは毎日、明るくおしゃれして出勤している。その姿にひかれ、今も「続きのシナリオを書きたい」と思っています。

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