
舞台は1945年の広島。女学生たちが、出征した男性運転士に代わって路面電車の乗務に就く。仕事に戸惑い、時に恋をしながら、やがて8月6日を迎える——。
市街地を走る電車内で繰り広げる演劇「桃の実」を夫(54)と企画し、5人で演じる。2006年の初演以来、広島や長崎でも公演し、今年は全国8都市を回る。
座席の観客の手を借り、揺れに合わせてひざの上に座る。実話を織り交ぜて65年前に引き込んでいく。長崎では元運転士の被爆者が号泣し始めた。「この人の目には、あの時の惨状が映っている」。車窓の景色が変わったように見えた。
都立高校を卒業後、劇団で知り合った夫と表現集団を結成。銭湯の脱衣所などで演じていた。「劇場では額縁にはめられた絵みたいで、おもしろくない」。都電でライブをやっていると聞いて「これだ」。
「桃の実」は、終戦後間もなく廃止された広島電鉄家政女学校を素材にしている。「テーマが重い。身内に戦死者もいない私には無理」。最初はためらったが、戦争中でも普通に青春を楽しもうとする女学生の生き方にひかれた。
夫は会社勤め、自らも複数のアルバイトをかけ持ちして週末の公演に出向く。女学生を演じることに少し抵抗を感じる。「でも、この話と被爆者に出会ってしまったからには、やらないわけにはいかない。私たちのほかにはできない表現だし」
ふじさわやよい(43歳)
(朝日新聞2010年7月7日付朝刊「ひと」欄から)

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