「生き方カレッジ」7回目のゲストは、世の中の注目度の高い「月9」枠などで、数々のヒットドラマを作り続けてきたテレビドラマプロデューサーの栗原美和子さんです。29歳でプロデューサーに抜擢され、45歳の現在まで仕事に邁進し続けてきた栗原さんには、常に「みなさんに知ってもらいたい」「一緒に考えてほしい」という、メッセンジャーとしての熱い思いがありました。(聞き手・高橋美佐子朝日新聞記者)
視聴者の感覚を大切にしたい

——私たち、ドラマの世界のことはなんとなく分かっているつもりでも、プロデューサーの方がどんな仕事をしているのか、実際には知らない部分が多いと思うのですが。
ほかの会社なら、3、4人で分担するような仕事を1人でやらせてもらえるのがプロデューサー。つまり、すごくたくさんの仕事をします。まずは、企画。どんなドラマを作って、どんなメッセージをみなさんに伝えていきたいかを考える。そして、そのドラマに合った放送枠をゲットします。次に、キャスティング。これは、出演する役者さんに限らず、ディレクターとかカメラマン、脚本家の方など、ドラマに関わるすべての人を選んで決めていきます。予算管理をしたり広告戦略を考えたりするのも仕事。撮影中にスタッフが事故にあったとかケガをした場合も、すべてプロデューサーの責任において対処します。
---女性プロデューサーという存在自体がまだまだ少ない気がしますが、栗原さんは、入社当時からこの仕事を希望されていたとか。
そもそもフジテレビに入社した理由が、テレビというメディアを通じて、世の中のみなさんと一緒に何かを共有したり考えたりする仕事がしたかったから。20代のうちにプロデューサーになりたかったのは、フジテレビという会社が特に若者をターゲットにした番組を多く作っているところでしたので、業界にどっぷりはまって頭でっかちになる前に、視聴者としての若い感覚を失わないうちに作り手になりたかったというのがあります。念願かなってプロデューサーになれたのは29歳。滑り込みセーフという感じでした。
にわか勉強では出来ない

---つまり、ご自分で発信したいメッセージがあったということですか。
会社が私をメディアの前面に出してくれたり、「月曜9時」という華やかな枠を任せてくれたりしたこともあって、どうも私は、軽いタッチの恋愛ドラマを作る人間と誤解されている気がします。実は、本当にやりたいのは、社会で未解決とされている問題や世の中で弱者と言われている人たちを、ドラマのメーンに据えて問題提起すること。でも、そういったシリアスな問題を堅苦しく扱っても、なかなか若い人たちには見ていただけません。そこで、恋愛ドラマというベールをかぶせ、しかもすてきな役者さんに演じてもらう。面白そうなので見ていたら、実は深いテーマがあったと気づいてもらえる。そんな、新しい方向、「栗原カラー」と言えるようなドラマを作りたいと思いながら、ここまでやってきました。
96年に放映した「ピュア」は、和久井映見さんが知的障害がある主人公を演じました。堤真一さん演じる男性に恋をして、初めておぼえる感覚の中で迷ったり悩んだりしながら成長していくというドラマです。当時の和久井さんは、女性誌で憧れの女性ナンバーワンに選ばれるような存在で、上司からも「今の和久井さんには、もっと他の役のほうが相応しい」と言われました。でも、そんな和久井さんが演じるからこそ多くの人が見てくれる、キャスティングする意味がある、と上司を説得しました。堤真一さんも、この頃は舞台のお仕事に特化されていましたが、何年もかけて口説き、「このテーマなら出るよ」とテレビドラマ初出演を果たしていただきました。こんな風に、方々に手を尽くして話題作りをすることも、1人でも多くの人にドラマを見てもらうためには大切なことなんです。
---栗原さんがテーマとして扱い続けている社会問題の中には、話題にすることさえタブー視される傾向のものも多いですよね。それをドラマとして発信するには、とても勇気が必要ではないかと思いますが。
ドラマを創り上げていく過程では、自分の見せたくない部分や言いたくないことなどをさらけ出さなければいけない時もあります。でも、それは自分の使命だと思って、常に覚悟しています。ものすごく傷つくこともありますが、その時は、お酒を飲んで、お岩さんのように目がはれ上がるまでとことん泣いて、それで気持ちを切り換えて次に向かう。きっと、根っからのメッセンジャーなんでしょうね。テーマが見つかると、「伝えたい!」という気持ちが止まらなくなってしまう。だから、自分が傷つくことは恐れてはいません。ただ、私が問題提起をすることで、誰かを傷つけてしまう可能性もとても高い。本当に勇気が必要なのはその部分です。だからこそ、にわか勉強で作ってはいけないと思っていますし、本当に自分の中から湧き出てくるメッセージだけを伝えるようにしなければいけないと、常に自分に言い聞かせています。
(下に続く=掲載は3月16日)

栗原 美和子(くりはら みわこ)さん
テレビドラマプロデューサー・作家
福岡県生まれ。1987年フジテレビ入社。辣腕プロデューサーとして数々のヒットドラマを生み出す。代表作は「ピュア」「バージンロード」「人にやさしく」「ムコ殿」など。脚本・小説等、執筆活動も精力的に行う。テーマは常に「ラブ&ヒューマン」。猿まわし芸人の村崎太郎氏と07年に電撃結婚した自身の経験をもとに被差別部落問題を真正面から書いた私小説「太郎が恋をする頃までには…」(幻冬舎)を08年10月に発表し、大きな反響を呼んだ。09年10月より、プロデューサーとしての幅を広げるため、フジテレビから系列会社の共同テレビへ出向中。

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