vol.4

主流を外れる勇気が次のチャンスに

鷺谷万里さん(日本IBM株式会社 執行役員-通信・メディア・公益事業担当) 

2011.12.15

女性エグゼクティブの視点

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日本のIT革新だけでなく、ダイバーシティー推進の先駆的存在である日本IBM。その改革の渦の中に常に身をおいてきた鷺谷万里さん。そのキャリアの軌跡を伺うと、グローバル化によってますます加速するビジネスの流れを、どのようにして泳いでいけばいいのか、ヒントが見えてきます。(聞き手:「J-Win」ライター小林亮子)

営業を希望、非主流が時代の流れに

── 今年1月から「通信・メディア・公益事業担当」になられました。どのようなお仕事ですか?

世界人口の3分の1にあたる20億人以上の人々が、現在何らかの形でインターネットにつながり、個人がブログやソーシャルメディアを通じてさまざまな情報を発信する環境にあります。国内を見ても、モバイル・ブロードバンドの拡充、スマートフォンやコネクテッドTVといった機器の普及など、これまでとは市場環境が大きく変化しています。このような変化と切り離せない通信業界やメディア業界のほか、震災を機にスマートグリッド、スマートメーターといった新しい取り組みが進む電気やガスなどの公益事業に対して、新たなサービスの開発や経営の変革をご提案、ご支援する営業部門を統括しています。

──最近の変化にとどまらず、入社以来、ビジネス市場やIBMは大きく変化してきたと思います。鷺谷さんのキャリアには、どのように影響しましたか?

入社3年目に、自ら希望して営業の部署に異動し、思いがけずチャンスが広がりました。私が配属されたのは金融業界のお客様を担当する部門で、大手証券会社を担当するチームに加わりました。さまざまな種類の案件があるなかで、男性の同僚たちは大型汎用機に関わる、いわば”主流”のプロジェクトを担当し、私は大型汎用機以外のサーバー、パソコン、ソフトウェアなどの製品の販売を担当しました。当時のIBMの営業は男性ばかりだったので、女性の私はいつまで続くか分からないと思われていたのでしょう。

当時はちょうど、インターネットの普及と、それに伴うハードウェアやソフトウェアの多様化が進みつつある頃でした。お客様から求められるソリューションが変わっていくにつれ、私が担当していた製品を扱うプロジェクトが増え、規模も大きなものになっていきました。そうした営業での実績を積み重ねていき、30代に入った頃に営業のチームリーダーになることができました。

世界のエグゼクティブに学んだ経営

──その営業の仕事をしながら、出産・育児も経験されたそうですね?

実は、営業として初めて担当した案件の提案活動の最中に妊娠が分かり、しばらく周囲に言うことができませんでした。契約書の準備までは行いましたが、最後の捺印をいただくのは、チームメンバーに代わってもらいました。このことは本当に心残りでした。また出産前には、営業としての職場復帰はできないだろうと思い込んでいました。ところが上司から「できるかどうか、まだ誰も実証していない。がんばって続けてみなさい」と励まされ、出産後2ヵ月で営業職として、もとの職場に復帰しました。

チームで営業目標を持っていたので、メンバーの一員としてチームに貢献しないと迷惑をかけると思い、とにかく必死でした。夜中まで働くチームメンバーと同等の貢献をするため、当時オーストラリアにいた両親に子どもを預けたこともありました。行きの飛行機は子供を抱いていたのに、帰りの飛行機は私一人。いったい自分は何をやっているんだ、と情けない思いをかみしめました。自分なりに一所懸命でしたが、非常に複雑な想いでした。

子どもが小学校に入学した頃、毎日話を聞いたり勉強をみたりする時間をもっと増やしてあげなければいけないと思うようになり、当時六本木にあったIBMのアジア太平洋地域を統括する会社(IBM AP;以下、AP)に出向したいと希望を出しました。子どもと過ごすために仕事のペースや時間管理をしやすい内勤の仕事に移りつつも、それまでの営業のキャリアを生かしてステップアップする新たな経験も得たかった。半年間、上司にかけあって、ようやく出向が決まりました。

APでの担当業務は、これまでは管理職経験者が歴任していた、APの金融部門を統括するゼネラル・マネージャーの補佐でした。その仕事を通じて世界各国のエグゼクティブたちと接する機会が得られました。また当時は、ガースナーがIBMコーポレーションのCEOに就任し改革が始まったタイミングだったので、経営者がどのように意思決定をするのか、組織はどう動くのか、その一部始終を垣間見ることができました。APに行くにあたって、営業職を離れることがキャリア的にはドロップアウトになってしまうのではないかと思ったこともありました。しかしAPでの経験は、その後のキャリアに確実に役立っています。特にグローバル企業の中で日本市場を担当するマネジメントとして、あらゆる物事を考慮し判断するセンス、スピード感を持って決断を下す力は、営業以外の仕事を経験することがあったからこそ、身についたものだと思っています。

 


プロフィール

鷺谷万里(さぎや・まり)さん
執行役員-通信・メディア・公益事業担当 日本IBM株式会社

1985年一橋大学法学部卒業後、日本IBM入社、システムズ・エンジニア研修後、大型システム製品企画推進部門にて製品発表および販促活動を担当。1988年、金融システム事業部にて大手証券会社担当営業。1996年、IBMアジア・パシフィック(金融システム事業)出向、1998年帰任。1999年金融システム事業部インダストリー・マーケティング部長、2001年eServer(サーバー、ストレージ製品)マーケティング部長、2002年ディレクター.マーケティング(全社マーケティング責任者)。2004年理事-ゼネラル・ビジネス事業システム製品営業担当、2005年7月執行役員 ゼネラル・ビジネス事業担当。2007年7月執行役員-マーケティング&コミュニケーションズ担当を経て、2011年1月より現職。「J-Win エグゼクティブ・ネットワーク」メンバー。

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